「近所においしいパン屋さんがあったらいいのに」。多くの人が抱く、ささやかな本音。
ではもし——オーブンも職人も常駐しないのに、“焼きたて級”のパン体験を届ける店が、大阪の地下街の一等地に現れたら?
この記事では、Osaka Metroの「大阪のまちを活性化するビジネスモデル」実証に採択されたパンフォーユーの新事業「ゴーストベーカリー」を、街を再編集する装置として読み解きます。
キーワードは、集客コンテンツとしてのパンと、冷凍庫だけで成立する運営モデルです。
1|大阪の地下街に現れた、“現場焼成に縛られない”ベーカリー
2021年2月16日、「パンフォーユー西梅田 partnered with Osaka Metro」が四つ橋線・西梅田駅直結のドージマ地下センター(ドーチカ)に期間限定オープン。
温かみのある木目とグリーンのしつらえが、無機質になりがちな地下空間に心地よい抜けをつくりました。
目的は、日常動線に“寄り道したくなる理由”を置くこと。
高通行量・高坪単価のロケーションに、従来のベーカリー運営では難しかった“軽さ”で挑みました。
2|最大の武器は、「冷凍庫だけ」で立ち上がる運営設計
一般的なベーカリーに必須のオーブン・製造厨房・職人常駐を前提としない。
だからこそ、狭小区画・火気不可区画・高賃料一等地でも“パンのある時間”を提供できます。
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省スペース:大掛かりな厨房が不要。通路脇の小間でも出店可
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低投資:高額設備・専門人件費を圧縮
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ロケ自由度:駅ナカ、地下街、商業施設の催事区画、マンション共用部などへ展開可能
「集客力×利便性が最大化される場所」ほど強い——これが今回、Osaka Metroに採用された決め手の一つです。
3|「パン=イベント動員力」を、街の再編集に使う
パンは“誰でもわかるおいしい理由”を持つ、強力な集客コンテンツ。
沖縄のパンイベント「Pa!Pa!Pa!Pa!パンダフル」でも、パンフォーユーのネットワークを通じて北海道・兵庫・京都など全国の名店のパンが一堂に。ここでしか出会えない“編集”が話題化を生み、わざわざ足を運ぶ動機になりました。
駅地下の実証でも、店舗そのものが“行く理由”になるよう、ラインアップを横断的に構成します。
4|企画の自由度が高い——“ご当地”も“クロワッサン祭り”も
冷凍を前提にすることで、短サイクルの入れ替え・特集企画が自在に。
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週替わりフェア:ご当地パン、季節の素材、名店コラボ
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テーマ催事:バターリッチ特集、クロワッサン祭り、ハード系推し
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SNS連動:限定入荷や完売速報で再来店の動機を積み上げ
“来るたびに新しい”を低負荷で回せるのは、現場で焼成を抱えないからこそ。短期ポップアップでも継続的な話題化が可能です。
クロワッサン特集ページはこちら
5|駅・地下街の“遊休スペース”を価値化する装置
動線のポケット、催事用の空き、短期のインターバル区画——眠っている坪を稼ぐ用途にも効果的。
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KPIへの効き:売上/坪の改善、通行量の滞留化、回遊の誘発
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時間帯最適化:朝・夕の通勤ピーク、週末の買い物需要に柔軟対応
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運営のシンプルさ:冷凍庫+最小スタッフで回せ、施設側の導入ハードルが低い
“装置”としての再現性が高く、他駅・他エリアへの横展開も視野に入ります。
6|パンフォーユーBizが選ばれた理由——一気通貫の実行力
パンフォーユーBizは提案・調達・物流・在庫設計をワンストップで支援。
短期×少人数のポップアップ運営でも、人気商品を切らさない陳列を実現します。現場は体験設計と接客に集中。
まちおこし規模のプロジェクト要件に合致する“運営の軽さと確実性”が評価されました。
7|東京・梶原のモデルショップが示した再現性
東京都北区の「パンフォーユー カジワラ」(都電荒川線・梶原駅徒歩3分)は、冷凍パン専門店のモデルショップ。北海道から沖縄まで全国35店の人気パンを編集して販売し、オープン後は想定の1.5倍ペースで売上を伸ばしました。
クロワッサン食べ比べは3日分を2日で完売、続くベーグル企画も好評。期間限定の予定が1カ月延長になった事実は、“編集×冷凍”の集客力と運営再現性を実地で証明しています。
「8月末にオープンして以来、想定の1.5倍の勢いで売れている」
「実店舗の展開は以前から考えていたが、コロナ禍で計画が早まった。飲食店から“パンのテークアウトを始めたい”という相談も増え、店舗運営のノウハウを学ぶ必要性を実感した」
——パンフォーユー 代表取締役・矢野健太(要旨)
8|市場の追い風:冷凍パンは“持続可能な伸び”
矢野経済研究所の予測では、冷凍パン生地・冷凍パン市場は年率2%程度で伸長し、2027年度に2,089億5,700万円へ。
保存性・廃棄ロス抑制・省人化という社会的要請に合致する領域で、中長期の再現性が見込めます。
「冷凍庫だけで開ける」という運営特性は、賃料が高く回転の速い好立地でも成立するため、施設KPIの改善に直結します。
9|コミュニティの呼び水へ——南相馬「アオスバシ」の示唆
人口密度や商圏規模の制約がある地域でも、このモデルは機能します。福島県南相馬市のコミュニティカフェ「アオスバシ」では、“おいしいパン”という機能が交流の起点に。
まず機能を置くことで、人が自然と集まり、関係が生まれる。これはOsaka Metroの目指す「まちの活性化」と地続きの価値です。
アオスバシの事例記事はこちら
まとめ:まちの“空き”を、おいしく編み直す
“焼く場所”から解放されたベーカリー体験は、高坪単価の一等地にも、狭いポケットにも、火気不可の共用部にもフィットします。
パンという強い集客コンテンツを最小装備でどこでも立ち上げる——それは、街の動線に小さな“おいしい渋滞”をつくり、回遊と出会いを生み出す方法です。
あなたの街の「ここ、もったいない」を思い浮かべてください。最初に置くのは、きっと冷凍庫です。